Oct 15, 2025

「仙台の酒文化を味わうガストロノミーツアー」1日目レポート(前半)

こんにちは、KURAFT編集部のOです!
このたび、管理職のHさんと一緒に「仙台市の酒文化を体感するガストロノミーツアー」に参加してまいりました。
三度の飯よりお酒が好きな私にとって、まさに夢のような内容です。お話をいただいたときから、わくわくが止まりませんでした。
体験のなかでお伝えしたいことがたくさんあり、少し長くなってしまうかもしれませんが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

■ガストロノミーツアー概要と参加経緯

仙台は、冷涼な気候と豊かな水に恵まれ、米やぶどうの産地として知られています。
さらに、ブリュワリーやワイナリー、ウィスキー蒸留所など酒づくりが盛んな地域でもあり、新しい挑戦を受け入れる風土も大きな魅力です。 今回のツアーは、こうした強みを活かし、食やお酒に関心のある方々を現地に招き、生産者との対話や食文化の体験を楽しめる「ガストロノミーツアー(美食ツアー)」として実施されました。運営は産直ECサイト「食べチョク」を手がける株式会社ビビッドガーデンが担い、仙台市の支援事業としてテスト的に進められました。

今回はビビッドガーデンさんからKURAFT編集長の島さんにお声がかかり、編集部としてHさんと私で参加させていただくことになりました。

■体験レポート

・グレートデーンブリューイング

仙台駅でツアー参加者の皆さまと合流し、バスに揺られること一時間弱。都会の街並みを抜け、トンネルを越えると一気に自然豊かな景色が広がり、その変化に驚きました。到着したのは、仙台市秋保にあるクラフトビールメーカー「グレートデーンブリューイング」のブリュワリーです。
犬のロゴマークが大きく掲げられた建物に足を踏み入れると、広々とした空間にアメリカンダイナーのようなお洒落な雰囲気が漂っていました。カウンターにずらりと並ぶビールサーバーを目にした瞬間、自然と気持ちも高まります。
今回のツアーでは、醸造長の清沢さんからグレートデーンブリューイングの歴史を伺いながら工場を見学し、ランチではクラフトビールと秋から登場予定の新メニューをブッフェ形式で堪能しました。

・グレートデーンの歴史

グレートデーンは1994年、アメリカ・ウィスコンシン州で創業。ビールの名産地で磨かれた味は評判を呼び、現在は州内に5軒のブリューパブを展開しています。創業者の一人でブリューマスターのロブ氏が手がけるビールは、2012年に全米「年間最優秀醸造家(Brewer of the Year)」に選ばれるほどの評価を得ています。
そのロブ氏が初の海外進出先に選んだのが、日本の仙台・秋保。2024年1月、自然豊かなこの地にビール醸造所とレストランを併設した「グレートデーンブリューイング秋保」が誕生しました。
その名の由来は、ウィスコンシン州にあるデーン郡と、犬のように人々のそばに寄り添う存在でありたいという願いを掛け合わせたもので、シンボルマークには犬種のグレートデーンが描かれています。そこには、郷土への誇りと温かな想いが込められています。
醸造長・清沢さんもまた、グレートデーンと深いつながりを持つ人物です。アメリカ留学中にアルバイトとして入社し、誠実な働きぶりが認められて会社の支援でビール専門学校に進学。現在は秋保で醸造長を務めるだけでなく、酒類ビジネスのコンサルティングにも携わっています。

・工場見学

清沢さんに案内していただき、最初に訪れたのは「モルト室」。部屋いっぱいに積まれた麦芽の香りに包まれ、ビールづくりの始まりを実感しました。
次に見せていただいたのは、透明な容器に入った麦芽やモルト。色や形の違いが味わいを決める大切な要素であることを学びました。特に印象的だったのは、隣の田んぼで収穫された「ひとめぼれ米」を副原料に使っていること。地域と醸造の強いつながりを感じました。
仕込みタンクでは、粉砕した麦芽に温水や米を加えて混ぜ、酵素の働きでデンプンを糖に分解し麦汁をつくります。これをろ過してホップを加え煮沸すると、苦味や香りが引き出されます。その後、発酵に適した温度まで冷やして発酵タンクへ。酵母が糖をアルコールと炭酸ガスに変え、条件によってエールやラガーといった多彩なビールが生まれます。最後に貯酒タンクでじっくり熟成させ、ようやく一杯のビールが完成するのです。

・いよいよ乾杯タイム

工場見学のあとは、お待ちかねの乾杯タイムです。2階に上がると、壁一面に大きなグレートデーンのロゴが掲げられていました。驚いたことに、これはアメリカから運ばれてきたコンテナの木枠を解体し、再利用したものだそうです。「金継ぎ」の精神を大切にし、モノを無駄にしない心意気に感銘を受けました。
注文は1階で行うスタイルで、目の前でサーバーからビールを注いでいただけるのも嬉しい演出。グラスに黄金色の液体が勢いよく注がれていく様子を見ているだけで、気持ちが一気に高まります。
Hさんと私は定番の「GREAT LAGER」と、お米を使った「湯上りピルスナー」を選びました。飲み比べてびっくり。同じ工場で仕込まれたとは思えないほど、香りも味わいもまったく異なるのです。
「GREAT LAGER」は苦味・甘味・香りのバランスが絶妙で、フルーティーながら王道感のあるクラフトビール。一方「湯上りピルスナー」は米由来のほのかな甘さがふんわり広がり、軽やかで爽やかな飲み心地が魅力でした。どちらも美味しくて、思わずごくごくと飲み干し、おかわりまでしてしまいました。

・料理とのペアリング

驚いたのは、ビールだけでなく料理も絶品だったこと。ワインや日本酒には「ペアリング」という概念がありますが、ビールにはまだ浸透していません。そこで「ビールにもペアリングを広めたい」という思いから、料理にもこだわりを込めているそうです。
地元食材をふんだんに活かしており、秋保産の人参を使ったキャロットラペや、女川産サーモンを挟んだサブサンドイッチなど、どれもビールとの相性抜群。中でも特に印象に残ったのが、フィッシュ&チップスとチーズカードのフライでした。
フィッシュ&チップスには石巻産のさくら真鱈を使用。ビール衣で包み、外はサクサク、中はふんわりとした食感に仕上がっています。チーズカードは”チーズの素”のようなもので、蔵王チーズさんに特別に作っていただいているもの。ここでも環境にやさしい工夫が見られ、ビール製造後に出るモルト粕を蔵王チーズの牛が食べ、そこからできたミルクがチーズカードへとつながる──自然の循環が生まれていました。
濃厚で弾力のあるチーズは、噛むほどに旨みが増し、ビールとのペアリングの楽しさを改めて感じさせてくれました。

今回は少人数でのガストロノミーツアーということもあり、食事は参加者の皆さんと会話を楽しみながら一緒にいただきました。これまで他のメディアの方と直接お話しする機会はなかったので、とても新鮮で、楽しいだけでなく多くの学びを得ることができました。

■秋保ワイナリー

グレートデーンブリューイングを後にし、次に向かったのは秋保ワイナリー。距離はわずか500メートルで、歩いても10分かからないほどだそうです。仙台から一度バスに乗れば、その後は歩いて巡れる──それも秋保の大きな魅力のひとつだと感じました。

・ワイナリー誕生のストーリー

秋保ワイナリーに到着すると、代表の毛利さんが出迎えてくださいました。驚いたことに、毛利さんはもともと建築家で、ワインづくりはまったくの素人だったそうです。
毛利さんがワイナリーを始めるきっかけとなったのは、東日本大震災の現場を訪れた経験でした。震災の復興案を模索する中で、山元町にあった宮城県唯一のワイナリーが津波の被害に遭い、県内のワイン産業が一度途絶えていたことを知ります。同時に、沿岸部で被害を受けた農家や漁師を「食」を通じて支えたいという思いが強まったそうです。
「宮城県産のワインをつくれば、それに合う料理も必要になる」──そう考えたことが、ワイナリーを立ち上げる決意へとつながったといいます。
土地探しは難航しましたが、知人の紹介をきっかけに秋保へたどり着きました。豊かな自然、清らかな水、そして秋保の人々からの厚い協力。その環境に背中を押され、事業を進められたそうです。
思えば、直前に訪れたグレートデーンブリューイングでも、清沢さんが「仙台には挑戦を後押しする文化がある」とおっしゃっていました。毛利さんのお話と重なり、地域の空気そのものが新しい挑戦を包み込んでいるように感じられました。

・ぶどう収穫体験

秋保ワイナリーの立ち上げについてお話を伺ったあと、実際にワイン用ぶどうの収穫を体験させていただきました。畑には赤ぶどうのサンジョヴェーゼが小粒ながら美味しそうに実り、思わずひと粒つまみたくなる誘惑をこらえつつ、いよいよ収穫のスタートです。
専用のハサミを片手に、一房ずつ丁寧に枝を切り取っていきます。ときには萎れた実を外すといった小さなお世話も加わりますが、これが意外と楽しい作業。つややかな房が手元に集まっていく様子を眺めていると、ちょっとした達成感を覚えました。
日本のワイナリーのおよそ9割が、このように人の手で収穫しているのだと伺いました。大変な作業ではありますが、だからこそ人の温もりがワインに深みを与えているのだと実感しました。
さらに毛利さんによれば、この後に続く「選果(せんか)」の工程はより大変で、深夜まで続くこともあるそうです。私たちが体験したのはほんの十数分でしたが、心地よい疲労感とともに収穫の喜びを味わうことができました。現地で体験したからこそ、ワインづくりの大変さと楽しさ、その両方を実感できた時間でした。

・醸造所とぶどう畑の見学

収穫体験のあとは、醸造所やぶどう畑をご案内いただきました。印象的だったのは、グレートデーンブリューイングと同じく、ここでも若いスタッフが多いこと。都市部に人材が集まるといわれる時代に、地域で新しい酒づくりに挑む若い世代の姿は力強く、土地に根ざしたものづくりが確実に次の世代へと受け継がれていることを感じさせてくれました。
ぶどう畑には、この土地ならではの工夫も随所に見られます。垣根は日差しを均等に受けられるよう南に直角となる東西方向に配置され、風通しがよくなる設計です。そのため日当たりや水はけにも恵まれ、ぶどう栽培に理想的な環境が整っています。
畑の北側には、かつて建材として全国に出荷されていた「秋保石」と呼ばれる凝灰岩の採掘跡が残っています。秋保ワイナリーの畑の土壌にもこの凝灰岩の礫が含まれており、そこで育ったぶどうのワインには、はっきりとしたミネラル感が表れるのが特徴だそうです。
ディナーでは、秋保ワイナリーのワインと地域の食材を生かしたコース料理がいただけるとのことで、とても楽しみにしています。

当初は一泊二日の旅を一回でまとめる予定でしたが、思いのほか内容が盛りだくさんになったため、ここで一日目(前半編)として区切らせていただきます。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!

次回の一日目(後半編)では、贅沢な旅館でのひとときや、秋保ワイナリーでのディナーについてご紹介する予定です。どうぞお楽しみに。