Nov 10, 2025

「仙台市の酒文化を体感するガストロノミーツアー」2日目レポート(前半)

こんにちは!KURAFT編集部のOです。
1日目は、内容が盛りだくさんだったため「前半編」「後半編」に分けてお届けしました。
最後まで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。
(まだの方は、[前半編][後半編]からご覧ください!)

今回はいよいよ最終日、2日目のレポートをお届けします。

■「伝承千年の宿 佐勘」で味わう、贅沢な朝食ビュッフェ

夜遅くまでHさんと語り合い、ふかふかのお布団でぐっすりと休むことができました。
翌朝は、やわらかな朝日で自然と目が覚めます。
身支度を整え、2階のダイニング「Miyagino」へ。

この朝食ビュッフェは、まさに驚きの連続でした。
半個室の落ち着いたテーブルに案内され、ワクワクしながら料理台へ向かいます。
まず目を引いたのは、サラダコーナーの充実ぶり。
新鮮な野菜がずらりと並び、中には見慣れない種類もあり、思わず手が伸びます。
和食・洋食どちらも種類豊富で、見ているだけで気分が上がるラインナップ。

私は、朝は和食派なので少し偏った感想になりますが、お味噌汁やラーメン、焼き魚などを目の前で調理してくれるライブキッチンスタイルがとても楽しく、自分好みの具材を選べるのも嬉しいポイントでした。
そして驚いたのが、朝からビールやワインなどのお酒が飲み放題という点。
おつまみにぴったりのお料理も多く、次回訪れた際は“朝風呂のあとに一杯”という贅沢な過ごし方をしてみたいと思いました。

全種類制覇したい気持ちをぐっと抑え、和食中心にお料理をチョイス。
地元の食材を使った一品一品はどれも丁寧な味わいで、本当においしかったです。
ちなみに写真左下のピンク色のご飯は、鯵と紅ショウガの炊き込みご飯。
鮮やかな見た目に反して味は上品で、紅ショウガと出汁の香りがふんわりと広がりました。

■大迫力の秋保大滝へ

朝食を終えたあと、迎えに来てくださったバスに乗り込み、日本三大名瀑のひとつとも言われる「秋保大滝」へ向かいました。

本来は滝つぼから迫力を体感する予定でしたが、この日は熊の目撃情報があったため、安全を考慮して「秋保大滝不動尊」の展望台から全景を眺めることに。
緑豊かな自然の中、高さ55メートル・幅6メートルの滝が断崖から一気に流れ落ちる様子は、上から見ても圧巻の迫力。
滝つぼから見上げたら、きっとさらに壮大だったと思います。

秋には周囲の木々が鮮やかに紅葉し、冬には一面の雪景色に包まれるとのこと。
季節ごとに異なる表情を楽しめる、まさに自然の芸術です。

■自然と調和する「ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所」へ

秋保大滝で自然の偉大さを感じたあとは、今回のツアーで特に楽しみにしていた「ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所」の見学です。

バスに揺られること約30分。到着してまず驚かされたのは、その広大さ。
敷地面積はなんと東京ドーム4個分もあり、今回はそのうちおよそ1個分のエリアを見学できるとのことでした。
最初に目に入るのは、青空と緑に映える赤レンガの建物群。
後の説明で知ったのですが、創業者の竹鶴政孝氏は「自然との調和」を何より大切にしていたそうです。
そのため、製造工程ごとに建物を分け、電柱は地下に埋設。建物の色は木々の緑に映える赤を採用するなど、景観との一体感にこだわって設計されたとのことでした。
宮城峡蒸溜所が完成したのは今からおよそ60年前。
当時、景観保全のために電柱を地中化するという発想を実現していたことに、先見性と美意識の高さを感じます。

■「ニッカのウイスキーを知るセミナー」に参加

いよいよ見学ツアーのスタートです。
宮城峡蒸溜所にはいくつかの見学コースがありますが、私はその中から有料プランの「ニッカのウイスキーを知るセミナー」に参加させていただきました。

無料コースでも、ガイドさんの案内や試飲を楽しむことができますが、この有料セミナーではさらに深く学べる特別な体験が用意されています。

主な違いは次の3点です。

・ウイスキー5種類の試飲が可能

 (シングルモルト宮城峡/シングルモルト余市/竹鶴ピュアモルト/カフェグレーン/スーパーニッカ)

・一般公開していない乾燥塔(キルン塔)1階内部の見学

・実際に使用されている貯蔵庫の見学

 (無料コースでは、見学専用の貯蔵庫の内部を見学できます。)

セミナー室に入り、自分の番号が書かれた席に着くと、机の上には5種類のウイスキーと、蒸溜所近くを流れる川「新川(にっかわ)」の水が用意されていました。
飲みたい気持ちをぐっと抑えながら、まずは竹鶴政孝氏がこの地に蒸溜所を建設するまでの軌跡を映像で鑑賞します。

ビデオでは、息子の竹鶴威氏が何度も現地を調査し、新川と広瀬川が合流する渓谷を発見した際のエピソードが紹介されていました。
新川の水で水割りを試した瞬間、「実に素晴らしい水だ。ここに決めた」と語ったという言葉が印象的でした。
ビデオ鑑賞を終えると、ガイドさんの案内でセミナー室を後にし、いよいよ工場見学がスタートします。

まず向かったのは「ビジターセンター」。
ここでは、NHKドラマ『マッサン』の撮影にも使われたというポットスチルの実物を間近で見ることができます。
蒸溜の仕組みを学びながら、「宮城峡」と「余市」ではポットスチルの形状が異なり、(宮城峡=バルジ型/余市=ストレート型)それぞれの個性が香りや味わいに反映されていることを教えていただきました。

この見学の中で、ガイドさんが何度も強調していたキーワードが「多様性」。
現代でも重視されるこの概念は、実はウイスキーづくりの世界では200年前から大切にされてきた核となる価値観なのだそうです。

ここからは、ウイスキーができるまでの工程をたどるように、ガイドさんの案内で工場内を巡っていきます。
最初に訪れたのは「キルン塔(乾燥棟)」。
ここでは、発芽した大麦を“ピート(泥炭)”でいぶしながら乾燥させ、麦芽をつくります。
ただし近年では、麦芽は専門業者から仕入れるのが一般的となり、キルンを稼働させる蒸溜所は少なくなっているそうです。
宮城峡蒸溜所でも現在は稼働していませんが、内部では熱風発生炉や乾燥に使われたピートの現物を見学することができました。
こちらは一般公開されていないエリアで、有料セミナーだからこそ間近で見ることができた貴重な機会でした。

ピートとは、植物が長い年月をかけて堆積した泥炭のことで、スコットランドでは伝統的な燃料として使われています。
このピートを使うことで、ウイスキーに独特のスモーキーな香りが加わるのだそうです。

ちなみに、この香りを強く感じられるのが、北海道・余市蒸溜所でつくられる「余市」シリーズです。

次に向かったのは「仕込棟」。
足を踏み入れた途端、麦の甘く香ばしい香りがふわっと漂ってきます。
ここでは、粉砕した麦芽に温水を加えて“麦汁(ばくじゅう)”をつくり、さらに酵母を加えて発酵。
アルコール分およそ8%の“もろみ”ができあがるのだそうです。

奥へ進むと、コンピューターやモニターがずらりと並ぶ管理室のような空間が現れました。
その一角のモニターには、水槽の中を泳ぐ金魚の映像が映し出されています。
この金魚たちはウイスキーづくりに欠かせない存在で、仕込みに使う水の安全を見守っているのだそうです。
水質に異常があれば金魚の動きで気づけるようになっており、まさに身体を張って品質を守る“名アシスタント”です。

次に案内されたのは「蒸溜棟」。
中に入ると、機械の稼働音とスモーキーなアルコールの香りに包まれます。
先ほどビジターセンターで見たポットスチルがずらりと並ぶ光景は圧巻でした。
ここでは、発酵を終えた“もろみ”をポットスチル(単式蒸溜器)に入れ、蒸気を熱源とするスチーム加熱で蒸溜していきます。

ちなみに、ポットスチルに「しめ縄」が掛けられているのには理由があります。
竹鶴政孝氏が酒造家の出身で、「酒は人間がつくるのではなく、自然がつくるもの」という信念を持っていたことを表しているそうです。

最後に向かったのは、蒸溜を終えたウイスキーを樽で熟成させる「貯蔵庫」。
有料セミナーでは、実際に稼働中の貯蔵庫を見学することができます。
中に入ると、ひんやりとした空気と静かな薄暗がりに包まれます。
ずらりと並ぶ樽をよく見ると、大きさや色味が少しずつ異なり、それぞれが異なる個性を持っていることに気づかされました。

ここでもキーワードは「多様性」。
使用する樽の種類や前歴(シェリー樽・バーボン樽など)、新旧の使い分けまでもが、原酒の多様性を生み出す重要な要素になっているのだそうです。
貯蔵庫には小さな窓があり、外気をあえて取り込む造りになっています。

「酒は人間がつくるのではなく、自然がつくるもの」――

竹鶴政孝氏の信念が、静かな空間の中に息づいていました。

ウイスキーができあがるまでの工程をじっくり見学し、ようやく最初のセミナー室へ戻ります。
次はいよいよ、お待ちかねの試飲体験。
学んだ知識を胸に、5種類のウイスキーを味わいます。

…と、ここまででまたしても長くなってしまったので、続きは「2日目・後半編」で!
後半では、実際にテイスティングした5種類のウイスキーの味わいや、旅の締めくくりをお届けします。